第二話

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「離して、離してっ……!」  誰にともなく訴えながら、両腕を振り回す。魔法でできた腕のような帯は自在に伸び縮みするようだった。いくら力を込めて振りはらおうとしても、はじめにつかんできた位置から少しもずれない。  それどころか、つかまれたところから徐々に魔力が吸われて行っていることに、ラティミーナは気がついた。  魔法の拘束具の触れていない頬や手の甲の辺りに、ちりちりと強い日差しに焼かれるような違和感を覚える。拘束具が触れていない箇所からも、魔力は吸われていっているらしい。 「魔力が枯れるまで、こうして吸われ続けるなんて……。そんなの嫌……!」  魔法牢とは、その中に閉じ込めた者の魔力を吸い上げて、閉鎖空間を保ち続けるという魔法だった。この禁止魔法の存在を知ったとき、ラティミーナは『なんて恐ろしい魔法を発明したのだろう、禁じられて当然だ』と強く思ったものだった。  歴史上、この禁固刑を科された者は三名。  いずれも魔力が枯渇し、崩壊した牢の中で廃人となっていたという記録がある。 「魔力が尽きたら、私が私でなくなってしまう……!」  もがきながら、魔法の拘束具以外に何もない空間に独り言を吐き出す。  ラティミーナは自身の魔力を持て余しながらも、『こんな魔力なんてなくなればいいのに』と思ったことはない。王宮魔導士のように高位魔法を学ばせてもらえれば、低位の回復魔法では治癒できない人たちを救えるはずなのだ。  高位魔法を学ばせてもらえなかった理由がある。幼いころ、王宮魔導士からたった一度教えられただけの難易度の高い魔法を即座に習得し、自在に操りだしてしまったことがあった。そのせいで、『いくら王子の婚約者といえども、この者に高位魔法を身に着けさせるのは危険である』と国王に進言されてしまった。以降は王立学園の授業で学ぶ程度の、魔力の少ない人でも使える簡単な魔法しか学ばせてもらえなくなってしまった。  少しでも魔力を持つものなら誰でも出せる魔法を、ロッドなしで手の中に出現させて放ってみる。火魔法、風魔法、水魔法――杖を必要とせずに魔法を放ててしまう点も、本職の魔導士から忌み嫌われる原因となっていた。  魔法の火がぶつかった拘束具が燃え上がり、焦げて欠けていく。しかしすぐさまラティミーナ自身の魔力を吸い上げて、元通り修復してしまう。  ラティミーナは魔法を放つのをぴたりと止めると、たった今見た光景に唖然とし、何度も目をまばたかせた。
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