平良(たいら)

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平良(たいら)

「わたしの名前を知ってるんですか?」  美羽は黒々とした目を平良に向けて、真っ直ぐに聞いてきた。  先祖の記憶はこの血に受け継がれてる。  この子の前世の黒姫さんも別嬪(べっぴん)だったさ。この子もすごい美人さ。悪い男は朝陽という男に限らず、これからも寄ってくるだろうな。  平良は美羽に一言だけ告げる。 「今は、オラたちは『会うべき時』は来てない。だから、お前の記憶を、この城からもとの世界に戻す時、オラは消すさ。けども、心のどこか奥底で、オラのことを覚えておいてほしいんさ。将来は結婚して、お前との間に三人、子供をもうける。オラたちは、そういう運命だから」  美羽は言われたことがわからない様子だった。だから、平良は玉座から降りて美羽にそっと近づく。  美羽は平良のゴツゴツした指先に、顔から首筋、肩や髪まで触られて、戸惑っている様子だ。 「いやか」  一応、平良は聞いてみる。 「そんなには。でも、ちょっと」  美羽は、初対面でいきなり身体を触られてしまったことにはかなり戸惑いを見せていた。まだ、高校一年生か。若いな。 「お前は、黒姫さんという長野の昔のお姫様の生まれ変わりなんさ。オラは長野の黒龍の子孫さ。この本、やるから読んどけ。お互い、前世やご先祖のことくらいは知らんとな」  平良は本を手元に召喚して、美羽に渡す。美羽は本を受け取って、一応、パラパラと読んでいる。  しかし、奇妙なことばかり起きているせいで、あまり内容が頭に入ってきてないようだ。 「じゃあ、お前もそろそろ、上野に帰れ。悪い男が他にまた来たら、オラがその都度、その男に説教してやるさ。オラはお前が二十一歳の時、ちゃんと出会って恋人になるから。その時まで待っとれ」  平良は言うと、美羽をもとの世界に戻す。自分自身だって、この暗黒城には決して長くは滞在できないから、美羽と時間をずらして、自分の体も上野に飛ばす。
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