悪意の滞り

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悪意の滞り

 ある日シモーヌに頼まれ、長老宅の隣に住むハンス宅の庭掃除をしている絵美。 (私からだを動かすのは苦にならないのよね) (子供の頃は近所のばあばと庭の手入れしていたし)  パン職人のハンスは気のいいおじさんで、奥さんを亡くし娘さんと娘さんの夫と3人で暮らしているのだが。娘さんの夫はオランス国の徴兵制のため不在。  パン職人のハンスと売り子担当の娘。そして通いのパン職人で店を切り盛りしているのだが、人手の足りないハンス宅の庭掃除を、今回絵美が担っている。 ※オランス国の徴兵制は成人男性のみで、任期は2年。健康上の理由や家庭の事情で免除されることもあるが、大半のオランス国の成人男性は徴兵制の対象だ。   2年の任期を終え元の生活に戻る者もいれば、そのまま志願し軍人として残る者もいる。     庭掃除も終わり、シモーヌが絵美を迎えにきていた。 「エミ!ありがとう!助かるよ」  ハンスは恰幅のよいおじさんで、子供が大好きな某アニメのパン職人を彷彿とさせる。  ハンスは絵美とシモーヌに手を洗うよう促し、パン屋の奥にあるテーブルに案内した。  目の前にはドライフルーツの入った、ブリオッシュのような見た目のパン。 「エミありがとう!」 「シモーヌからエミは辛いもの以外あまり好き嫌いがないって聞いたから、おじさん得意のデザートパンだ」  どうやらこの世界では、菓子パンの事をデザートパンというらしい。
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