悪意の滞り

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 ヤンデラ村の長老預かりの身となっている絵美。  はじめは『祈りの場に突然現れた異世界からの転移者』である絵美を遠巻きに見ていた村人達も、コツコツ長老宅の庭の手入れや、パン屋の前を掃除する絵美に話しかけるようになっていた。  もちろん長老やシモーヌの力添えもあったのだが。 「おいしい……このデザートパン」 「そりゃよかったエミ」 「ハンスさんのパンはこのオランス国でも知られているのよ」  デザートパンのお供には『南方の黒い飲み物』  絵美の世界での『コーヒー』と似たような飲み物で、香りとさわやかな苦みが特徴だ。  シモーヌはふと「?」と思いハンスに尋ねた。 「ハンスさん……ケイトさんの姿最近見かけないけど、具合でも悪いの?」  ケイトとはハンスのひとり娘で、栗毛のくせっ毛にそばかすが特徴の愛嬌あるパン屋の看板娘だ。  ハンスは少し表情が暗くなる。 「ケイトは『悪意の滞り』で寝込んでいる」 『悪意の滞り?』  絵美は意味がわからずシモーヌに尋ねた。  シモーヌの説明によると、本来スムーズに出なければいけない毒が体に溜まる事を『悪意の滞り』とエウロパ大陸では呼ぶそう。  ようは『便秘』だ。  元々快便体質の絵美は異世界での生活でも、便秘に悩むことはない。  オランス国の衛生環境がよいのも理由だが。  ふと……マッサージ師の仕事をしている頃は、便秘の悩みを抱える女性のお客様は多かったな。そう絵美は思い出していた。  
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