仮初め後宮妃と秘された皇子

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 重い瞼をゆっくり開けたとき、眩しさでとっさに目をつむった。しかし、すぐに我に返って力強く目を見開く。 「目が、目を開けられました!」 「報告を!」  ばたばたとすぐ近くに人の気配があり、続けて凜風の視界には見知った人物が映った。 「春蘭!」  心配そうに顔を覗かせた相手の名を反射的に呼び、凜風は上半身を起こした。そして次の瞬間、どういうわけか春蘭に力強く抱きしめられる。 「よく……よくご無事で。丸二日目を覚まさないでいたので、どうなることかと……。私がついていながら申し訳ありません。本当によかった」  安堵した声が耳元で聞こえ、突然の抱擁に頭が回らない。しかし今はそれどころではないと、凜風は春蘭を突き飛ばすようにして距離を取った。 「私なんてどうでもいいの! 珠倫さまは!? 珠倫さまは無事なの?」  切羽詰まった凜風の問いかけに、春蘭は虚を衝かれた顔になる。けれど春蘭はすぐに優しく微笑んだ。 「ああ。ご心配には及びません。凜風も無事です。一足先に目が覚めてあなたの心配をしていましたよ」  目覚めたばかりだからなのか、春蘭の発言内容が凜風には理解できない。 (誰が、誰の心配をしているの?) 「えっと、無事なのは珠倫さま?」  改めて問いかけると、春蘭は心配そうな表情で凜風に視線を合わせてきた。 「なにか混乱されていますね。もちろんあなたは無事ですよ。これからどんな後遺症が出るかわかりませんから、慎重に過ごしてまいりましょう」 「待って。春蘭がなにを言っているのかわからない」  やはり話の内容がどうしても噛みあわず、凜風は正直に告げた。頭も体も重く思考力も落ちているが、珠倫が無事なのはひとまずわかった。とはいえこれはどういう状況なのか。 「ひとまずお部屋に戻りましょうか、珠倫さま」  混乱する凜風をよそに春蘭が穏やかに告げた。そこで凜風は自分の手を見て驚く。傷ひとつない滑らかな手、掴んだ一房の自分の髪は馴染みのある鳶色、ではなく艶のある黒髪だ。 (もしかするとこの体……私じゃなくて珠倫さま!?) 「違う、違うの。春蘭。私は凜風なの!」  状況が飲み込めないまま凜風は叫んだ。ところが春蘭は真に受けず、労いの眼差しを向けてくる。 「落ち着いてください。彼女は大丈夫です。凜風も頭を打ったみたいで少し様子がおかしかったんですが……とにかく今は休みましょう」  そっと背中を支えられながら告げられ凜風は目眩を起こしそうになる。
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