仮初め後宮妃と秘された皇子

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(どうすればいいの?) 「春蘭」  そこで別の人物の声が聞こえ、凜風と春蘭の意識がそちらに向いた。 「凜風、大丈夫なのですか?」 (わ、私!?)  現れたのは、凜風だった。自分が自分を見ている。なんとも奇妙な感覚だ。 「顔を見たくて……」  おずおずと答えた凜風の声は、凜風が自分で認識しているよりもやや高く感じる。春蘭の視線がこちらに向いた。 「ああ。ご覧の通り、珠倫さまは無事ですよ? すみません、凜風。私はこの後のことを報告してきますので、少し珠倫さまをお任せしてかまいませんか?」 「ええ」  そっと立ち上がり春蘭は部屋を出ようとする。 「あなたも本調子ではないんですから、無理はなさらないように。では珠倫さま、失礼します」  春蘭が出て行き、凜風はおそるおそる自分に尋ねる。 「珠倫さま、ですか?」 「凜風?」  そう呼ばれたことで凜風は確信し、珠倫の、正確には自分の体の元へ近づき膝を折った。 「やっぱり珠倫さまなんですね? ご無事でよかったです! って、どうしてこんなことに……」  珠倫の無事を喜ぶ一方で、問題はまだ山積みだ。つまり凜風と珠倫の体が入れ替わってしまったという結論は間違いなさそうだが、原因もどうすれば元に戻るのかもがまったくわからない。 「ごめんなさい」 「珠倫さま?」  神妙な面持ちで謝る珠倫に、凜風は尋ねた。 「あのとき、春蘭にこっそり睡眠薬を盛ってひとりで部屋を抜け出したの。……身投げするつもりで」 「身、身投げ!?」  橋の上で見かけた珠倫の雰囲気から、尋常ではない状態だと直感したが本人から『身投げ』と聞かされると、やはり衝撃は大きい。 「な、なぜそのような真似を?」  詰め寄る凜風に珠倫はそっと目線を落とした。 「実は……泰然さまから夜伽に召されて」 「え?」  凜風は初めて聞いたが、おそらく春蘭経由でその話が伝えられたのだろう。女官としては主が第一皇子の相手に選ばれたなど嬉しくて誇らしい事態だ。入念に閨の準備を進めるのが通常だろう。  しかし自分の顔なのに、珠倫の表情はどこまでも痛々しかった。 「馬鹿よね、ここでは名誉以外のなにものでもないのに……」  身投げするほど思いつめていたとは、思いもしなかった。とはいえ身投げまでしなくても明星宮を出ることは可能なはずだ。しかしその考えをすぐに改める。珠倫の父が、曹家が許すはずがないだろう。
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