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「嬪なんて地位いらないわ。生まれ変わりたい、別人になりたいと思って欄干に手をかけたら、凜風が現れて……。原因はわからないけれど私のせいよね。本当にごめんなさい」
「謝らないでください! 私の方こそおそばにいたのに、珠倫さまのお気持ちをまったく理解していなくて……女官失格です」
珠倫ならきっと泰然に見初められ、嬪どころかもっと上の地位へ、それこそ正妃にだってなれるだろうと信じて疑わなかった。一方で、珠倫の口からそんな希望を聞いたことなど一度もない。
凜風は気を取り直し、明るく告げる。
「とにかく泰然さまからの夜伽は、今回の件でしばらくないでしょう。その間に元に戻れる方法と珠倫さまがどうすればよいのかを一緒に考えます!」
凜風の提案に、珠倫は泣きそうになりながら微笑む。
「凜風、ありがとう」
その言葉だけで凜風の胸は満たされる。続けて凜風は春蘭について触れた。
「ひとまず、春蘭にはこの件をお伝えしましょうか。事情を理解していてもらった方が」
「それはだめよ」
「え?」
春蘭には入れ替わりの事実をきちんと伝え、理解者になってもらおうという凜風の考えは力強く否定される。驚きで珠倫を見ると、彼女は気まずそうな面持ちになった。
「あっ……。春蘭はもうすぐ明星宮を去るのに、この問題に巻き込んでしまったら」
告げてきた珠倫の言い分に納得する。たしかに性別を偽るだけでも彼の苦労は計り知れない。ここで珠倫との入れ替わりを伝えたら、さらに頭を悩ませ下手すれば明星宮を去るのを延ばすと言い出しかねない。それは彼の負担と性別が露見する危険性が増すだけだ。
「そうですよね。珠倫さまがかまわないなら黙っておきましょうか。それに私が珠倫さまではなく凜風だと伝えても全然、信じてくれませんでしたし」
〝珠倫〟が目覚めたことで、その事実を前に春蘭もまともに取り合ってくれなかった。でも真面目な顔で告げたとしても、今の状況なら彼はすべて聞き流す可能性もある。
こうなっては仕方がない。覚悟を決めるだけだ。
「いいですか、珠倫さま。どうか無理なさらないでください。女官の仕事も体調が悪いと言って休んでくださいね。私からも春蘭に伝えますので」
珠倫の体調はもちろんだが、主である彼女に女官仕事などさせられない。凜風の体になっている珠倫はこれでしばらくはなんとかなるだろう、問題は……。
「私が珠倫さまの代わりなんてできるでしょうか」
そばでいて彼女の仕草や日課などは理解しているが、それと自分がするのとは話が別だ。
「凜風ならきっと大丈夫よ」
自分に励まされるのはなんとも不思議な気分だ。とにかく戻る方法を探りながら、このままやっていくしかない。すべては珠倫さまのため、と凜風は自分に言い聞かせた。
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