仮初め後宮妃と秘された皇子

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「珠倫さま、私はすぐそばに控えておりますのでなにかありましたらいつでもおっしゃってくださいね」 「あ、ありがとう」  いつも珠倫が過ごしている自室に春蘭に連れられてやってきたが、どうも落ち着かない。自分が使用するのも、春蘭の過保護な態度にもだ。  凜風の体になっている珠倫は、凜風の助言もあり、いつもの女官部屋ではなく個室を与えて養生させている。しかし珠倫となっている凜風はひとりで過ごさせてもらえるわけがなかった。 「それにしても、もうあんな無茶はなさらないでください。腕輪を取ろうとしたなんて。そんなものいくらでも代わりを用意しますから」  寝所で横になろうとした凜風に春蘭は腰を落としてしっかり目線を合わせ訴えかけてくる。珠倫と話し、寝付けずに散歩に出かけ啓明橋の上で月見をしていたら、お気に入りの腕輪を落とし、それが水路へと転がっていたのを追いかけ、バランスを崩したと説明することにした。 「凜風がいなかったら、どうなっていたか……。寿命が縮まりました」  本当に心配したという面持ちに珠倫本人ではなくても罪悪感を覚える。 「ごめんなさい」 「謝らないでください。あなたは無事だった。それがすべてです」  謝罪する凜風に春蘭は言い切る。あまりにも迷いのない口調に凜風は顔を綻ばせた。 「春蘭は優しいんですね」 「そんなことありませんよ。あなたは特別です。あなたのためならこの命も惜しくない。全力でお守りしますから」  真剣な表情で告げられ、凜風の心臓が跳ね上がる。脈拍が上昇し、つい春蘭から目を背けてしまった。  珠倫になってから、彼の意外な一面ばかりを見ている。同じ珠倫に仕える身ではあったが、彼がこれほどまでに珠倫を大事にしているとは思いもしなかった。  あきらかに凜風に対する態度とは異なる。これは珠倫だからだ。自身に言い聞かせながら、今度はどういうわけか胸がずきりと痛む。 (なんで、なんでこんな気持ちになるの?) 「それもあと少しですが……。そういえば泰然さまからの夜伽の件は、事情をお伝えしたらお見舞いの品を贈ってくださるそうです」  そこで泰然の名前が出て、凜風はふと我に返る。春蘭は優しく微笑んだ。 「あなたならきっと泰然さまのお眼鏡に適います。なにも心配する必要はありません」 「……はい」  安心させるように告げられ、凜風は頷く。早く元に戻る方法を見つけなければと思いながら。
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