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翌朝、凜風は緑の液体が入った小皿とさっきからずっとにらめっこをしていた。けれどいつまでもこうしてはいられない。
「ほら、飲んでください」
春蘭が今か今かと見張るようにこちらをじっと見てくる。その眼差しの威圧感はなかなかのものだ。
「どうしても、飲まないとだめよね?」
「もちろんです。ただでさえ目が覚めない間は飲みそびれていましたから」
間髪を入れない返答に凜風は肩を落とした。これは珠倫の体調を整えるため、毎日飲んでいる薬だ。薬草を煎じて葛湯と混ぜたものだが、どう見ても食指が動かない。
とはいえ珠倫の体のためだ。凜風は意を決し、器の端に口をつけ、中身を飲み干した。
(にっがーーーーーーーーい)
反射的に戻しそうになるのを必死に抑えた。珠倫は普段、涼しげな顔をして飲んでいたが、こんなものを毎日飲まないとならないなんて凜風には耐えられない。
「珠倫さま? どこか気分が?」
背中を丸める凜風に春蘭が近づく。
「も、もう少し……甘くならないかしら?」
涙目で訴えてみたが、逆に春蘭には不思議そうな顔をされた。
「珠倫さまはあまり甘いものがお好きではないでしょう。それにしても頭を打った影響が味覚にも出ているなんて」
「春蘭、少しいいかしら?」
そこで顔を覗かせたのは、凜風として女官の格好をした珠倫だった。
「凜風、体は大丈夫ですか?」
同じ質問をしようとしたが先に春蘭が尋ねる。珠倫は困惑気味に微笑んだ。
「少しずつ女官の仕事に慣れていきたいの。ごめんなさい、記憶があやふやだから迷惑を書けるかもしれないけれど……教えてくれる?」
珠倫はそっと春蘭の袖を掴み、上目遣いで彼を見る。やけに上品で弱々しい声色に、それを見ていた凜風の背中に寒気が走った。
(わ、私、そんな言い方や振る舞いはしないんだけれど……中身は珠倫さまとはいえ、なんなのこれは)
気恥ずかしくて直視できない。春蘭はそっと珠倫の肩を叩いて彼女を落ち着かせた。
「わかりました。でも無理はしないでくださいね」
「うん」
目を泳がせながらふたりのやりとりを見て、凜風は内心でため息をつく。なんとも複雑だが、しばらくはしょうがない。
「では、その前に珠倫さまへ薬の塗布をお願いします」
「……ええ」
そこで我に返る。珠倫の痣に薬を塗るのは凜風の役目だった。そのときいつもさりげなく春蘭は席を外していたが、彼の性別を考えると当然だろう。湯浴みの付き添いなどもすべて自分が行っていたと思い返す。
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