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(このあとは、どうしよう……)
まだ本調子ではないのだから、と言われたもののずっと横になっているのも性に合わない。いつもは女官として忙しく仕事に追われ、ここ最近はさらに春蘭についていろいろと積極的に学んでいた。
手持ち無沙汰になってしまい、凜風は行儀悪いのも承知で仰向けに倒れ込んだ。
(珠倫さまが動けない分、私がなんとか元にも戻る方法を探らないと)
そうは思っても、手がかりはおろか、どうすればいいのか皆目見当つかない。
(書庫へ行ってみようかしら?)
「珠倫さま」
「な、なに?」
そこで名前を呼ばれ、凜風は勢いよく体を起こした。扉の向こうから声をかけてきたのは春蘭だ。
「麗花さまより茶会への誘いがきています。どうされますか?」
麗花は珠倫と同じく嬪の地位にある即室だ。茶会を開くのが好きで、珠倫はよく声をかけてもらって参加していた。凜風は付き添ったことはないが、気分転換にはうってつけだろう。
「行くわ! そうお返事して」
明るい声で即答した凜風に、扉の向こうで春蘭が息を呑んだのが伝わってくる。
「よろしいのですか? まだご気分が優れないと言ってお断りすることもできますが……」
「だ、大丈夫よ。せっかくのお誘いですもの。同じ嬪同士、交流を深めておくのも大事でしょう?」
それとなくフォローを入れる。春蘭は了承の意を唱えそのまま下がろうとした。その前に凜風は思い出したように彼の名を呼ぶ。
「春蘭!」
「どうされました?」
足を止めたのが気配でわかる。凜風は扉の方へ向けて早口で捲し立てた。
「り、凜風のことなんだけれど……。私より彼女の方が重症なのに無理していると思うの。どうかしっかり休ませてあげて」
凜風の中身は自分たちの主である珠倫だ。体調云々の前に彼女に女官仕事をさせるわけにはいかない。
「承知しました。大丈夫です、凜風のことは気をつけて見ておきますから」
「うん。お願いね」
春蘭の返答にホッと胸を撫で下ろす。そして部屋で再びひとりになり凜風はため息をついた。
(しょうがないけれど……春蘭との距離が遠く感じる)
そこで頭を振った。今まで春蘭とはそこまで親しくなかった。彼が明星宮を去ることになり、その流れで彼の秘密を知ってわずかに距離が縮んで……。ここ最近の話だ。
不必要に寂しさを感じる必要はない。
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