仮初め後宮妃と秘された皇子

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 皆が寝静まった頃、凜風にはまったく睡魔が訪れず、むしろ眼が冴える一方だった。  今日だけでいろいろありすぎた。さらにこれは珠倫の体だ。一刻も早く状況を改善しなければと気だけが焦る。  呪術書の類をいろいろ読んでみたが、その中で気になったのは同じ状況を作ってみるという記述だ。 (でも、珠倫さまとまた水路に落ちるなんてそんな危ないことできないし……)  頭を抱えるが、はっきりとした解決策は浮かばないし見つからない。とりあえず気分転換に外の空気でも吸おうと凜風は立ち上がり、窓に近づく。 「珠倫さま」  一瞬、空耳を疑う。しかし凜風は声のした方にすぐさま顔を向けた。 「春蘭?」  衝立ひとつで仕切られた部屋の向こうには春蘭がいる。彼の性別を偽るためと珠倫の護衛としての配慮だ。 「どうされました?」  どうやら聞き間違いではなかったらしい。春蘭に問われ、凜風は衝立の方にそっと近づいた。 「ご、ごめんなさい。起こしちゃったかしら?」 「いえ。眠っていませんでした。それで、どうされたんです?」  改めて聞かれ、悪いことを企んでいたわけではないがわずかに躊躇いながら答える。 「あ、寝付けないからちょっと気分転換に窓から外でも見ようかと……」 「見るだけになさってください。この部屋からけっして出ないように」 「う、うん」  怒ってはいないが、春蘭の声も口調もどこか厳しい。気まずい雰囲気が流れ、凜風がおとなしく布団に戻ろうとした。 「あなたが啓明橋から落ちたと聞いたとき、心臓が止まるかと思いました」  ぽつりと呟かれた言葉に、凜風は足を止める。 「珠倫さまをおそばで守るのが私の役目なのに、その務めも果たせず、あなたをあんな危険な目に合わせてしまった。今でも激しく後悔しています」 「そんな春蘭のせいじゃないわ」  衝立に近づき、凜風は必死に訴えかけた。彼は睡眠薬を盛られていたのだからしょうがない。しかしその事情まで話すわけにはいかなかった。 「凜風さえ、巻き込んで危険な目に合わせてしまいました。情けないです。なんのために私は」 「春蘭!」  弾かれたように凜風は衝立を寄せ、彼の部屋へと足を踏み入れた。突然の凜風の行動に、珍しく春蘭は狼狽する。
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