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「つまり凜風ですがこちらが珠倫さまで、珠倫さまですが中身は凜風……で合ってますか?」
「はい」
翌日、春蘭を前に凜風と珠倫は並び、正直に事情を話した。一通り話を聞いた春蘭だが眉間の皺は深いままだ。珠倫と凜風は気まずそうに顔を見合わせる。
「どうして、もっと早く言ってくれなかったんですか」
彼の気持ちは当然かもしれないが、凜風の姿でいる珠倫に詰め寄る勢いになり、中身は凜風の珠倫が庇う。
「そう責めないでください。珠倫さまは、春蘭に極力心配をかけたくなかったんです」
その言葉に春蘭は口をつぐんだ。伏し目がちになっている珠倫を見遣り、さらに凜風が続けていく。
「そもそも春蘭、私が最初に凜風だって訴えたのに取り合ってくれなかったじゃないですか!」
凜風の指摘に春蘭はふいっと視線を逸らした。
「あのときは珠倫さまが目覚めたことで、凜風の下手な説明まで頭に入ってこなかったんです」
「ひ、ひどいです。なんで人のせいにするんですか?」
あまりの言い草に凜風はつい言い返した。やはり珠倫と自分では扱いに差がありすぎる。春蘭はわざとらしく咳払いをした。
「とにかく、元に戻る方法を私の方でも探してみます。珠倫さま、凜風の体でなにかと不自由があるでしょうが、もうしばらく耐えてくださいね」
「ちょっと春蘭、さっきから失礼すぎません?」
凜風は思わず唇を尖らせる。しかし春蘭はどこ吹く風だ。
「凜風は凜風でけっして無理をしないように」
「わかっています。珠倫さまの体に傷ひとつつけないよう気をつけます」
間髪を入れずに凜風は真面目に返す。その反応に春蘭は虚を衝かれた顔をしたが、ややあって目を細めた。
「信頼していますよ」
気合いを入れる凜風の隣で、珠倫が急に春蘭へ抱きついた。突然の彼女の行動に春蘭以上に凜風が驚く。
「春蘭、ごめんなさい。黙っておくって決めたのに……本当はずっと不安だった」
震える声で訴えかける珠倫を落ち着かせるように、春蘭は彼女の肩に手を添えた。
「そうですね。この事態に一番動揺しているのは珠倫さまご自身でしょう。私にできることは、なんでもします。おそばにおりますから」
「ええ」
ふたりのやりとりと凜風は呆然と見守る。傍から見ると女官同士が身を寄せ合っているという奇妙な光景だ。しかも春蘭に抱きついているのは他でもない凜風自身なのだから、なんとも言えない。
ズキズキと胸が痛み、唇を噛みしめる。珠倫のために動くのが我々の役目だ。だから彼の態度はなにも間違っていない。今までも春蘭は凜風を大事にしてきた。
「わ、私。ひとまず薬湯を飲みますね」
それ以上、ふたりを見ていられなくなり必要以上に大きな声で凜風は宣言する。春蘭も早速準備を整えた。
「そうですね、これも珠倫さまのためと思って頑張ってください」
昨日と同じ濃い緑色の液体にため息が漏れそうだ。一度知ってしまった苦さは、初めてのとき以上に躊躇ってしまう。
「ほら。甘くはできませんが全部飲めたら口直しに白糖を用意してあげますから。お子様な凜風にはぴったりでしょう」
「子ども扱いはやめてください!」
言い返しながら、凜風は器の端に口をつける。苦さに顔を歪めて飲み干す凜風を春蘭はおかしそうに見守っていた。
そんなふたりの様子を珠倫が複雑そうな面持ちで眺めていたことに、凜風も春蘭も気づいていなかった。
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