仮初め後宮妃と秘された皇子

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(さすがは珠倫さま。見た目も中身も完璧で、人としても素晴らしい女性だもの。絶対にゆくゆくは即妃ではなく正妃になる方だわ!)  おそらく自分のような人間とは口も利きたくないという者も多いだろう。家柄や地位だけで蔑まれ生きてきた。しかし珠倫はいまだに凜風を実の妹のように接している。 「で、春蘭さまはどうしてこちらへ?」  珠倫への思い出にうっとりしつつ、水を差されたと言わんばかりに凜風は春蘭に尋ねる。  春蘭は、珠倫とは親戚で幼い頃から共に過ごし、珠倫が凜風に声をかけた際も春蘭は最後まで凜風を共に明星宮に連れて行くのを反対した人物だ。  そういう経緯もあって、どうしても彼女に対する苦手意識は拭えない。  しかし答えたのは春蘭ではなく珠倫だった。 「私が呼んだのよ」 「え?」  凜風が珠倫を見ると、先ほどとは打って変わって神妙な面持ちになっている。どうしたのかと春蘭に視線を遣ったが、彼女も黙りこくって、その表情はなんともいえない複雑そうなものだった。 「凜風に話しておきたいことがあるの」  珠倫の言葉に目を見張る。一体どうしたというのか。ひとつだけわかるのは、ふたりの表情から、今から聞かされる内容はあまり喜ばしいものではないということだ。  締め切った部屋の中、上座に座る珠倫を前に凜風と春蘭は並んで座る。ややあって珠倫の口が動いた。 「実は、春蘭があと三月で女官を辞めて明星宮を去る予定なの」 「え!?」  思わず叫んで隣にいる春蘭を見ると、彼女は凜風の方を見ずにただ前だけを見据えている。 「……理由を尋ねてもよろしいですか?」  おずおずと前を向き、春蘭ではなく珠倫に尋ねた。 「体調が優れないみたいで、このままここで女官をするのは難しいという話なの」 「そんな……」  春蘭とは長い付き合いになるが、そんな状況だったとはまったく知らなかった。 「本当は珠倫さまが、正妃になるまでを見届けたかったのですが……」  そう静かに呟く春蘭はどこか悔しそうで、歯がゆそうに感じる。  お世辞にも春蘭との仲がいいとは言えない。けれど同じ珠倫に仕える者同士として何年もやってきた。凜風が女官として今、やれているのも春蘭が様々なしきたりや技術を教えてきてくれたからだ。  なにも言えずにいると、珠倫がわざと明るい声で続ける。 「だからね、もしも春蘭に聞いておきたいことや教えてもらいたいことがあったら遠慮なく言ってほしいの。春蘭も凜風にいろいろ託したいこともあるみたいだから」 「わかり、ました」  小さく頷き、頭を下げる。凜風の胸の中には言い知れぬ不安が広がり、今になって隣にいた春蘭の存在の大きさを思い知っていた。
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