仮初め後宮妃と秘された皇子

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「凜風」  さっきから春嵐の声で確かめるように何度も名前を呼ばれるのを、凜風は彼の腕の中でおとなしく受け入れていた。  本当は名前を呼び返したいのに、今の自分の声は凜風のものではないと自覚すると、口にするのが躊躇われてしまう。  優しく頭を撫でる大きな手のひらの感触も、この伝わってくる体温や鼓動も、どうか今だけは自分のものでいてほしい。  たとえ珠倫にすべて返さなくてはならないとしても。  厚い胸板はやはり異性のもので、春嵐と密着して彼のはだけた漢服の間から左鎖骨に並ぶふたつの黒子が目に入る。 (珠倫さまは知っているのかしら?)  春蘭とは長い付き合いになるのに、春嵐については知らないことばかりだった。  もうすぐ夜が明ける。きっと珠倫がここにやってきて、夜伽の件を報告しなくてはならない。そのときにはおそらく、お互いにいつも通りになっているだろう。 (これは全部夢なの?……それでもいいや)  もうしばらくだけこうしていてほしい。春嵐の温もりに包まれながら凜風は静かに目を閉じた。
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