622人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
顔の分からない女同士の闘いを他所に今日も吉高は薔薇の香を匂わせて帰宅した。その面立ちは振り返らなくても見える、惚けて締まりの無い情けない28歳。
「夕飯、なに?」
「茄子のオランダ煮とお素麺」
「夏らしくて良いね!シャワーして来るよ」
(紗央里さんはさっさと排水口に流してね!)
明穂は吉高の浮気が発覚した当初は狼狽え動揺したが相手の女性の姿を薄らと感じた時に覚悟を決めた。
(離婚しよう)
仙石の義父母や両親には申し訳ないが、浮気をした挙句に事もあろうか「セックスを愉しもう」などと平然と言い放つ男性と暮らして行ける筈がない。神の御前で「死が2人を分つまで」と誓い合ったが明穂の心の中の吉高は死んだも同然だった。
「美味しい?」
「美味しいよ、明穂と結婚した僕は幸せ者だよ」
(幸せなのはあなたの脳内お花畑だけじゃないの?)
ただやはりこれからの人生をひとりで歩んで行くのかと思うと気持ちは沈んだ。
最初のコメントを投稿しよう!