紗央里

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 また今日も<非通知>設定の着信音が鳴り響く。携帯電話は消音設定で2階の布団の中に押し込めたがそれでも微小な空気の揺らぎを感じて気が変になりそうだった。 ピンポーンピンポーン  紗央里の着信音から気を逸らそうと掃除機を取り出しスイッチを入れた途端インターフォンが鳴った。そのタイミングに明穂は「ひっ」と小さな悲鳴を挙げてその場に立ちすくんだ。まさか、自宅住所まで知らない筈だとモニターを覗くとカメラいっぱいに唇が映っていた。 「ど、どちらさまでしょうか」 「なに、なに言ってるの!早く開けてちょうだい!重いんだから!」 「お母さん!?」  インターフォンのカメラに顔を付けモニターの画面を占領していたのは明穂の母親だった。明穂に何度も電話を掛けたが一向に出る気配が無いので慌てて来たのだと言った。 「慌てた割に」 「そ、スイカ!仙石さんから頂いたの!」  明穂の胸はチクリと針で刺された。 「明穂、心配だから電話には出てよね!」 「ごめん」 「で、携帯電話は!」 「修理中なの」 「なに、壊したの!」 「液晶画面割っちゃって」 「おっちょこちょいね!」  母親は部屋を見回し「相変わらずなにもない部屋ねぇ」とソファから転げ落ちたクッションを座面に戻した。 「だって危ないでしょ、お掃除も大変だし埃が溜まるから」 「そうね、それが賢明だわ」 「そうだ!」 「なに、如何したの」  離婚をするならば先立つものが必要だ。結婚前から僅かだが毎月貯金をしていた。それが幾らになっているか母親に確認して貰おうと思い付いた。明穂はチェストから取り出した預金通帳を開いて渡した。 「お母さん、貯金幾らある?」 「貯金?あら?」  母親が訝しげな顔をした。
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