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「お母さん、違うよ。1番右端、上から2段目」
「あ、ごめん。あら!」
「如何したの」
母親は封筒と葉書の束を取り出した。
「あら、まぁ。明穂には教えてたのね」
「なにが?」
「返事はちゃんと出したの?」
「なんの事?」
母親の言葉に耳を疑った。これまでの3年間、仙石の義父母には差出人の無い絵葉書が送られて来ていた。当然、吉高にも大智からの無愛想な絵葉書が届いていた。
「え、だって吉高さんが」
「なに、あなた知らなかったの!」
「だって聞いてない」
母親が見た封筒の束は明穂宛で差出人の住所が書かれていた。大智は明穂には自分の住所を伝えていた。その事を吉高は明穂には教えず引き出しの中に仕舞い込んでいた。封筒を捨てなかったのは良心の呵責だろうか。
「大智くん、ニューヨークに住んでいたのね」
「ニューヨーク、アメリカ」
「なにをしているのかしら、ねぇ」
浮気の事は元より貯金の使い込みもそうだが大智の住所を教えてくれなかった事は明穂にとっては許し難い裏切りだった。
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