大智

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 段ボール箱を物置に押し込むと明穂は手洗いを済ませて階段を上った。見遣ると寝室の扉の隙間から白い明かりが漏れそれは不規則に点滅した。 (LINEメッセージ、よくそんなに話す事があるわね)  明穂は意図的に寝室に向かう廊下で足音を立てた。慌てふためいた雰囲気に紛れて明かりは消え、吉高は何事も無かったかの様に明穂に背中を向け寝た振りをした。 (馬鹿にしてる)  いくら妻の目が不自由であっても夫の変化に気付かない訳がない。そんな事すら推し量れない程に紗央里に夢中なのだろうか。高学歴であろうと大学病院の医師であろうと今の吉高は一個の人間として最低、最悪だ。 (ーーーー)  紗央里が玄関先に現れる迄は吉高の地位や体裁に傷を付けるまいと思っていた。然し乍らいざ現実となると沸々と怒りが込み上げて来た。 (吉高は許さない、紗央里も許さない)  ただ吉高の不倫相手が紗央里という名前で小柄である事以外なにも分からない。興信所に依頼しようにもキャッシュカードは吉高が管理し月々の小遣いなど高が知れていた。 (どうしよう)  やはり頼みの綱は大智。明穂は帰国の日を指折り数えた。
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