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紗央里から届いた気味の悪い段ボール箱は物置の奥に仕舞ったままだ。明穂はそれをごみ収集ステーションに持って行こうかとも考えたが玄関の扉を開けた途端、紗央里が待ち構えて居るのではないかと思い立ち竦んだ。
(それに、これも不倫の証拠になる筈)
然し乍ら紗央里がこれを持って来たという確固とした証拠は何処にも無く、ただの無作為な悪戯だと言われればそうかもしれない。しかもその顔も薄ぼんやりとしか見えておらず無表情で特徴が掴めなかった。
(怖い)
路地2本先の表通りを通り過ぎる車の気配が昨日の恐怖を思い起こさせた。明穂は玄関扉の施錠を確認するとチェーンを掛けリビングのカーテンを閉めて階段を上がった。
(ーーーどうして)
明穂は寝室のベッドに寄り掛かり天井を見つめた。
(私のなにがいけなかったの?)
不倫をした吉高も悪いが自身にも至らなかった点があったのでは無いかと明穂は胸を痛めた。
(ーーーやっぱり目が不自由だから?)
この2年間吉高は優しい夫だったが、たまの休日に旅行に出掛けても反応が薄い明穂に辟易し、日常生活でも気遣ってばかりで息苦しかったのだろうか。
(でもそんな事、最初から分かっていたんじゃないの?)
然し乍ら吉高には弱視の明穂と結婚する覚悟など端から無く、ただ大智に負けたくないその一心で求婚した。そんな吉高の軽率な行動を明穂が知る由もなかった。
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