大智

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 モニターには髪を後ろに撫で付け眼鏡のフレームを光らせた男性が横を向いていた。その神経質そうな男性は細身で濃灰のスーツジャケットらしき物を羽織り深紅のネクタイを締めていた。それにしてもセールスマンがタクシーで乗り付けるなど聞いた事が無い。 「どちら様でしょうか」 「どちらもこちらもねーよ!早く開けろよ!」  隣近所に響く声。 「大智?」 「おう、大智様のお帰りだ!早く開けろって!」 「大智!」  吉高と似ているがやや(しゃが)れた声がインターフォンのマイクに唾を飛ばした。その人物は帰りを待ち侘びた仙石大智だった。明穂は慌てた手付きでチェーンを外すと鍵を回した。ドアノブを下ろす間も無くその扉は開き、なんの躊躇(ためら)いも無く華奢な明穂の身体を抱き締めた。 「ちょ、ちょっと!」 「ちょっともなんもねぇよ!3年振りの再会に遠慮はいらねぇよ!」 「わ、私、もう吉高の奥さんなのよ!」  大智は後ろ手で扉を閉めると今にも口付けしそうな勢いで顔を近付けた。明穂はその唇を両手で塞ぎそれを拒んだ。 「チッ、減るもんでもねぇし」 「減るわよ!」  大智は「ちわーっす」と軽い挨拶で革靴を脱ぎ散らかし家の中を見回した。明穂が革靴を揃えていると便所は何処だと尋ねその扉を閉めた。 (え、帰りは明日じゃなかった?)  余りにも突然の出来事で唖然とした明穂だったが我に帰り玄関扉を施錠した。
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