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「大智、お疲れ様」
「なにが」
「お仕事だったんでしょ?」
電話の向こうで一呼吸の間。
「ちげぇよ、新幹線の中だったんだよ」
「何処か出張に行くの?」
「おまえの頭は虫湧いてんのか」
「ひ、酷っ!」
大智は佐倉法律事務所を退職し金沢市のとある法律事務所に転職が決まったのだと言った。現在は残りの有給休暇を取得中、自由の身で吉高の悪事を詳らかにするのだと息巻いている。
「今、金沢駅に着いたところ、なんか有ったんだな?」
「ーーーうん」
「情けねぇ声出すなって。で、今、実家か」
「なんで分かるの!」
「分からない方がおかしいだろ、今から帰るおばさんに言っといて」
「なにを」
「腹減ってるんだよ!飯食わせろよ!」
大智のこの暴君ぶりは明穂が落ち込まない様に、塞ぎ込まない様にと敢えてぶっきら棒に接してくれる優しさだった。
「分かったわ」
「おう!タクシー使うから15分くらいで宜しく!」
呆れてため息を吐いた明穂だったがその優しさが有り難かった。
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