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「はぁ〜、食った食った!おばさんの飯は美味い!」
「そんな褒めてもなにも出ないわよ」
「て、メロン持ってんじゃん」
「相変わらず目敏いわね」
やはり大智が来ると明るく場が和む。吉高は明穂と結婚し田辺家と縁付いても何処か余所余所しく堅苦しい。生来の性格とはいえこれ程までに正反対の兄弟も珍しいのではないだろうか。
「ほら、飲みなさい」
「あ、すんません」
「いや、良いね良い飲みっぷりだね」
「お父さん、あんまり飲ませないで」
明穂の父親は明穂と大智が結婚し大智が義理の息子になるものだと思っていた。ところが大智がなんの相談もなく突然渡航してしまい田辺家と仙石家が仲違いしていた時期も有った。そこで吉高との縁談が持ち上がり両家は和解した。
「いやぁ、大智くんが婿ならなぁ」
「お父さん!」
「おじさん、今からでも遅くないっすよ!」
「大智!」
父親は酔いに任せてビール瓶を傾けるのだが大智はかなり真剣な表情でグラスの泡を啜っている。
「ねぇ、大智くんが金沢に戻ってまでしたい事ってなんなの?」
メロンに包丁を入れながら母親が振り返ると大智は右の眉を吊り上げ悪戯めいた笑みを浮かべ明穂を見た。
「そりゃあ、明穂と」
「ーーーーー!」
明穂はその背中を思い切り叩いた。
グホッ
グラスのビールが机に溢れ大智は激しく咽せた。大智の「おまえを奪いに行く」宣言はかなり本気のようだ。
「大智、あんたまさか」
「東京から戻る理由なんかひとつしかねぇじゃん」
「本気なの」
「吉高がーーー」
「しっ!まだお母さんにも言ってないのよ!」
「おっせぇなぁ」
オレンジ色のメロンが食卓に並んだ。
「なに、メロン出すの遅かった?」
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