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(ーーーーえ、まさか!)
直情型の大智の事だ。もしかしたら吉高の不倫の件を口にしたのかもしれないと明穂は耳をそば立てた。それは不要な心配だったが大智はとんでもない事を言い出した。
「なんで東京の事務所を辞めたんだ!」
「そうよ、やっと採用されたんでしょう、勿体ないわ」
「もう辞めた!再就職先も決まった!問題ねぇだろ!」
それはそうだ。いつもの思い付きでUターン再就職したと叱責されてもおかしく無い。
「やりたい事があって帰ったらしいな!」
「チッ、あいつ口が軽いな!」
まさか大智が両親に相談も無く金沢に戻って来るとは思ってもみなかったので明穂はその事を大智の母親に漏らしてしまった。
「大智、やりたい事ってなんなの?」
「まさか失敗して逃げてきたんじゃないだろうな!」
「俺がそんな下手するかよ!」
机を叩く音がして明穂は飛び上がった。「この騒ぎはなんだどうした」と明穂の両親も様子を見に2階に上がって来た。
「どうしたの?」
「なんだかお義父さんとお義母さんが大智と喧嘩してるみたい」
「あらまぁ、珍しいわね」
3人で顔を見合わせて居ると大智は例の事について言及した。
「結婚してぇ女が居るんだよ!」
「そうなのか」
「遠距離恋愛?でもあなたアメリカに居たんじゃ」
「金沢に居たんだよ!」
「なら紹介しなさい!」
「未だ出来ねぇんだよ!」
「如何して!」
「旦那が居るんだよ!」
「はぁーーーーーーーー!?」
明穂を除く両家の大人たちは驚きの声を挙げた。そこで烈火の如く大智の父親が「不倫か!おまえ、不倫なのか!」と騒ぎ出した。
「そんなんじゃねぇよ、手も握ってねぇ(昔はキスしたけどな)」
「手っ、てっ、てててっつ!」
「親父、落ち着けよ」
「大智、弁護士が他所の奥さんと不倫なんて世間様が知ったら如何するの!」
「だーかーらー不倫じゃねぇから」
「どっ、どこの女だ!」
「心配するなって、近々紹介するから」
「大智!」
階段を上る音がして大智の部屋に明かりが点いた。カーテンが開き大智と田辺一家がご対面である。大智はなにも言わずにVサインをするとカーテンを閉めた。
「な、なんだ」
「大智くん、如何したの」
「さ、さぁ」
大智は着々とその日に向けて準備を始め、明穂は脇に汗をかいた。
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