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女の影
翌日、大智は昼飯に素麺を思い切り啜ると明穂の部屋で胡座をかいた。長い前髪を垂らし黒いTシャツにジーンズ姿の大智は明穂と付き合っていた頃を思い出させ思わず胸がときめいた。
「なに、ギャップ萌えだろ」
「あーーー」
「萌えたな」
「否定はしないわ」
「あーーー、おまえの事抱き締めてぇ」
明穂は一歩後ずさった。
「昨夜のあれはなんなの」
「親父たちのショックを和らげる為に打ちかました」
「寝込んだらしいじゃないの」
「吉高の事を知ったら脳卒中だな」
「縁起でもない」
新しいSDカードをデジタルカメラに差し込みながら大智は髪を掻き上げた。
「明穂」
「なに」
「その女に見覚えはないのか」
「分からない」
「だよなぁ」
そこで明穂は大智に肝心な事を伝えていない事に気が付いた。
「あっ!」
「なんだよ変な声出すなよ」
「紗央里さんに会った事がある!」
「はぁ?見覚えないって言ったじゃねぇか」
「紗央里さんか如何か分からないけれど家に来た女性が居るの」
「なんだよそれ」
「荷物を持って来たの」
「荷物ぅ?」
「お腹が切られたぬいぐるみが入ってた」
「ば、馬鹿じゃねぇのか!早くそれを言えよ!」
大智は寝込んでいる父親の車の鍵を奪い取ると明穂を後部座席に乗せた。
「大智、免許証持ってたんだ?」
「免許は持ってる」
「持ってるって運転した事はあるの!」
「これ踏んでハンドル回せば良いんだろ!」
「ちょ、ちょっとーーー!」
明穂はシートベルトを絞めると強く目を瞑った。
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