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明穂の手を取った母親は涙を流した。
「お母さん、泣いてるの?」
「ごめんね」
「なにが?」
母親が父親に向き直ると軽く頷きその肩に手を置いた。
「吉高さん、一度も此処に顔を出してくれなかったのよ」
「そうなの」
「それで大智くんに尋ねたら教えてくれたの」
「なにを?」
(ーーーーまさか)
母親の背後に大智が立ち眉間に皺を寄せた。
「ーーー大智!」
「もう隠しておけないだろ」
「言ったの!?」
「吉高が来ねぇ方がおかしいだろ」
大智は吉高の不倫行為と明穂が離婚を望んでいる事を詳らかにした。そして現在、吉高と愛人への慰謝料請求に必要な証拠を集めている事も正直に打ち明けた。
「明穂の怪我、その人が原因なのね」
「そうかもしれない」
「大丈夫なの」
「大智が居るから大丈夫」
「ーーーーそう」
父親は大智に深々と頭を下げ「明穂をよろしく頼む」と懇願した。
「おじさん、うちの両親にこの事は黙っていてくれませんか」
「大智くん」
「吉高にけじめを付けさせます」
「分かった、約束しよう」
そこで担当医師と看護師が病室に駆け付け問診や脈拍を計測し始めた。
「明日、もう一度MRI検査とCTスキャン検査を行います」
「宜しくお願い致します」
そこで大智が右手を差し出した。
「明穂、家の鍵貸してくれ」
「良いけど、鞄のポケットに入ってる」
「さんきゅ」
「如何するの」
「取りに行かなきゃならねぇんだ」
大智は明穂の手を握ると「任せておけ」と笑顔で頷いた。
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