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島崎は先程とは異なるファイルフォルダをクリックした。液晶モニターに映し出されたのはデジタルカメラで撮影されたと思しき画像だった。1枚目は白杖を突いたベージュのスニーカーの爪先、次は横断歩道、レンガ路の教会、児童公園の風景、笑顔の子どもたちがブランコに乗っていた。
「こ、これは」
画面はやや傾いているが樹の下のベンチに紗央里が腰掛けていた。それは無表情でデジタルカメラに向かって1歩、2歩と近付いて来た。その腕が伸びると真っ青な空を背景に醜く歪んだ娘の顔が写っていた。
「さ、紗央里」
「この画像に写っている女性は佐藤教授のお嬢さん、紗央里さんでお間違いありませんか?」
「間違いーーー無い」
父親は画像を食い入るように見た。
「だが、この画像はおかしいじゃないか!何故動かない!これはやらせだろう!しかも最後の自撮り写真はなんだ!紗央里がセルフタイマーで撮った画像だろう!」
島崎は1枚目の画像を指差した。
「これは白杖、ご存じの通り目が不自由な方が使われる棒です」
「そ、そうだが」
「この方は女性で毎朝同じ時間帯に同じ経路を白杖を頼りに散歩されます」
「そうか」
「趣味はデジタルカメラで風景を撮影する事です」
「目が見えないのにか!」
その言葉に島崎は怒りを覚えた。
「はい、ご自身が通られた経路を家族に見せる為だとお伺いしました」
「それが紗央里となんの関係があるんだ!」
父親の語気が強くなり島崎を見据えた。
「この公園には4組の親子連れが遊んでいました。その誰もがお嬢さんが白杖を手にした女性を突き飛ばしたと証言しています」
「ーーーまさか」
「その女性は意識を取り戻しましたが金沢大学病院に入院中です」
「ーーーまさか」
島崎は父親の顔を睨みつけるとその罪状を口にした。
「傷害罪になります」
「しょ、傷害罪」
「今のところ警察は動いてはいませんが最悪、罪に問われます」
「まさか、傷害罪などうちの娘に限って!それは出鱈目だ!その女性の虚言だ!なにかの間違いだ!」
「目撃者がいます」
「そ、それに紗央里が脅迫や傷害などする必要が何処にある!」
「ーーー此処にあります」
次のファイルフォルダを開く瞬間、紗央里はパソコンから目を背けた。
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