吉高

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吉高

 荘厳なパイプオルガンが仙石家と田辺家の人々を包み込み、マリアと百合の花に彩られたステンドグラスの光の中に明穂と吉高が向き合った。 「汝、仙石吉高は、この女、田辺明穂を妻とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、妻を思い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」 「誓います」 「汝、田辺明穂は、この男、仙石吉高を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、夫を思い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻のもとに、誓いますか?」 「誓います」  明穂と吉高は指輪の交換を終え神の御前で軽く口付けを交わした。明穂は仙石明穂となった。 ーーーそして2年後 「紗央里(さおり)」  暗い寝室、それは健常者では聞き取れない微かな呟きだった。明穂が起き上がるとツインベットを遮るナイトテーブルで眩しい光が点滅した。 (紗央里、紗央里って誰?) 「う、ううん」  携帯電話の点滅に目を覚ました吉高がそれに手を伸ばした。明穂は慌てて布団に潜り込み眠った振りをした。 「ーーーーー!」  携帯電話の画面を確認した吉高は寝室の扉を閉めた。明穂の心臓は跳ねた。あれは、あの呟き、あの仕草はテレビドラマでよく一場面だ。 (まさか、うわ、浮気?)  明穂の握り拳に汗が滲んだ。
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