ひかりのなかへ

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 明穂が銀のカトラリーを手にした所でそれは大智により制止された。 「なに、食べちゃ駄目なの」 「腹一杯になる前に胸一杯にさせてやるよ」 「またよく分からない事を言うわね」 「そのフォークを握った手を出してみなさい」  明穂は左利きだった。 「あ、これ」 「黙れって」  大智は明穂の手を取ったがそれは緊張で汗ばんでいる事が分かった。明穂の心臓も大智が言ったように脈打って跳ね回った。左手の薬指に冷たい物が()まるのを感じた。明穂の唇が嬉しさに歪んだ。 「なに泣いてるんだよ」 「だって」 「約束しただろ、1.5ct(カラット)俺とお揃いなんだぜ」 「大智の指輪と?」  大智は親指と人差し指で明穂の額を軽く弾いた。 「い、痛っ!」 「ばっか、ちげぇよ!弁護士バッジとお揃いだよ!」 「向日葵」 「探すの大変だったんだからな、ありがたく思え」 「ありがとう」 「だーかーら泣くなって!みんなが見るだろ!」  明穂が指先で触れると確かにそれは放射線を描き中央にダイヤモンドが輝いていた。大智のプロポーズは輪郭しか見えない明穂の世界でも眩く美しく光った。 「指輪のサイズはいつ測ったの?」 「吉高に聞いた」 「ひっ、酷っ!」 「吉高も同じ事言ってたな」 「デリカシーはないの?容赦無いのね」 「明穂を泣かしたんだ、当然の報いだ。さぁ、食おうぜ」  その日食べたオペラ テヴェールはほろ苦かった。明穂は優しかった日の吉高の笑顔を思い出し目頭が熱くなった。
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