3.孤児院から見えた社会の闇

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 ある日、孤児院視察から戻ってきたルイトポルトにアントンは問うた。 「殿下、今日の孤児院を視察されてどう思われましたか?」 「親を早くに亡くして気の毒だが、保護される場所があってよかった」 「その場所の環境はどうでしたか?」 「『どう』というと? まぁ、設備は古くて居心地よさそうとはあまり思えなかったが……」 「いったいどれだけ国庫からあの孤児院に補助金が出ているかご存知ですか?」 「そこまでは把握してなかった」 「年間1000万クレーバーです」 「なのになぜあんなに設備がボロボロなのだ?」 「中抜きしている貴族がいるからです」 「犯罪ではないか!」 「ですが、私が今、言ったことは全て推測です。彼らは売買契約書を偽造したりして巧妙に隠しています」  ルイトポルトは憤ったが、アントンはそれだけではないと言葉を続けた。 「前回視察に行かれた時にお見かけした子供達を覚えていらっしゃいますか?」 「いや、正直言って覚えていない。前回の視察の時にいた子供達で今も孤児院にいる子供はいるのか?」 「実は孤児院にいる子供達は、孤児院に来てからほとんど2、3年以内に養い親にもらわれていきます。あの孤児院に限らず、ほとんどそうです」 「養い親が見つかるならいいじゃないか」 「それがいい親ならいいのですが、実際はもらわれていった子供達の消息はほとんど不明です」 「……ということは人身売買か?!」  クレーベ王国では、人身売買や奴隷所有は禁止されている。それでも地下に潜ってやる者はいるのだ。  王都の孤児院を管轄しているのは、宰相の家門に属する貴族家だ。闇は根深い。
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