4.貧民街

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「いいから、もう放してやろう――これ、やるよ。俺達が見えなくなってから開けるんだぞ」  ルイトポルトはカバンから小さな包みを出すと、少女の薄汚れた手の上に置き、両手でくるんで包みを握らせた。 「え? いいの?」 「ああ。でも見せびらかすんじゃないぞ」 「ありがとう!」  少女はさっきと打って変わって綻ぶような笑顔になった。わざとらしく煤で汚したルイトポルトの顔を彼女が覗き込むと、黒い瞳とルイトポルトの透き通るような青い瞳の視線が合った。 「お前、お姫サマを救う王子サマみたいだよ!」 「これっぽちで大袈裟だよ。それに『お姫様』は自意識過剰じゃないか?」 「失礼だな! こんなに汚れた王子もいないよっ!」 「ヤン、行こう」  アントンは『無礼者!』と叫びたくなったが、辛うじて我慢した。でも話が長くなって住民の注目を浴びたくないので、2人の話を遮った。  3人はすぐに踵を翻して貧民街の出口の方向へ去って行った。少女は道の真ん中でその背中をじっと見ていた。
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