6.占い婆さん

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 おばあが小屋の中の布の仕切りの中へ声をかけると、仕切りをくぐって壮年の男性がペトラとおばあの所にやって来た。彼はがっしりした身体に平民の着るような簡素な服を身に纏っており、年齢の違いこそあれ、ヤン達と同じような雰囲気を持っていた。 「お嬢さん、初めまして。私の名前はアレックス。商会や貴族家で働く使用人の斡旋所を開いているんだ。下女として働く気があるかい? 住み込みの所なら毎日食事を出してもらえるし、そうじゃなくても給金で自由にふわふわのパンを買えるよ」 「本当?」 「ああ、本当さ。今日、一緒に来るなら特別に道中でおいしいパンを買ってあげるよ」 「行く! 行くよ! でも行く前に兄さんに知らせてもいい?」 「ヨルクは本当の兄じゃないだろう? 貧民街の掟は来る者拒まず去る者追わず。ヨルクも分かっているはずだよ」 「おばあ、それはそうだけど……」 「嬢ちゃんが今日一緒に来るならお菓子も買ってやるよ」 「本当? でも兄さんに何も言わないで出て行くのは……」 「大丈夫さ。ヨルクには私から連絡がつく」 「そう?……ヤン君とも会える?」 「保証はできないけど、探す手伝いはしてあげるよ」 「本当?! やったー!」  ペトラは頭陀袋で作った薄汚れた服から突き出た腕を振り上げてぴょんぴょん跳ねた。 「そうと決まったら、その汚い恰好を何とかしなきゃいけないね。こっちに来な」  おばあがボロ布カーテンをめくってペトラをその裏側に招いた。長年おばあの所に遊びに来ていたペトラもボロ布の仕切りの向こう側を覗いたことはなかったので、思ったよりも綺麗な様子に驚いた。
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