6.占い婆さん

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 おばあは部屋の隅に設置されているかまどの上の大鍋で湯を沸かし始めた。 「ペトラ、この水がめをあの扉の向こうに運ぶのを手伝ってくれ」  おばあの声を聞いてアレックスがやって来た。 「俺が運んでやるよ」  ペトラは、水がめで両手が塞がっているアレックスのために扉を開けて驚いた。扉の向こうは貧民街にはあり得ない浴室だった。  アレックスは水がめの水を浴槽に全て流し入れた。 「どうしてこの大きな桶に水を移すの?」 「沸騰させたお湯と混ぜてお前の身体を洗うんだよ」  湯が沸騰すると、アレックスは大鍋を浴室に運んで浴槽に入れた。それをもう1度繰り返し、アレックスは指先を入れて温度を確認し、袖をまくってお湯をかき混ぜた。 「いい湯加減だ。ちょっとお湯が少ないけど、これ以上は時間がかかり過ぎるから仕方ない。俺はレディの入浴を見る訳にいかないから、おばあが後はやってくれる。俺は向こうで待ってるな」  アレックスが浴室の扉を閉めて出て行くと、おばあが腕まくりをした。 「ペトラ、その汚い頭陀袋を脱ぎなさい」 「ええー?! やだよ!」 「つべこべ言わない!」  おばあは老婆とも思えない力強さで抵抗するペトラから頭陀袋を剥ぎ取り、ペトラを浴槽にぶち込んだ。石鹸も付けていないのに、その途端にお湯に皮脂と汚れが浮いてきた。おばあはお湯をペトラの頭からかけて石鹸を頭から身体中につけ、同じく石鹸を塗り込んだ布でペトラの身体をゴシゴシ擦った。 「うわっ?! おばあ、痛いよ!」 「我慢しな。長年の汚れが溜まってるんだ。奉公に出て今みたいに不潔にしていたらすぐにクビになるから、働き出しても自分で髪の毛と身体を洗うんだよ」  身体を洗った後のペトラは、見間違えるような美少女だった。まっすぐな黒髪はもう脂でべたべたしておらず、さらさらしており、薄汚れて浅黒いと思っていた肌は健康的に少々日に焼けてはいるものの、元々は色白だったようで頭陀袋に隠れていた所の肌は白磁のように白い。身体はまだ栄養が足りずに細くて小さいが、身体の大きさの割に手足が長い。成長したらスレンダーな美女になりそうである。  ペトラの髪を拭きながら、おばあは彼女の器量を褒めた。 「ほう。あんたも中々器量よしだね。こりゃ、ますます貧民街なんかで暮らしていたら危ないよ」 「おばあ、私の服を返して」 「これは不潔だからもう捨てるよ」 「やだよ!」 「こんなのを着ていたら即クビだよ。それよりこの綺麗な服をあげるから機嫌を直しな」 「えっ、こんないい服くれるの?」 「服だけじゃなくてこの靴もさ」  おばあがくれたのは質素な木綿のブラウスとスカートの古着、くたびれた革靴だったが、ブラウスの襟にちょっとしたレースが付いていて前見頃にプリーツが入っており、ペトラはかわいいと大興奮した。  その服装とペトラの器量は貧民街では目立つので、ペトラは粗末なフードマントをもらって深くフードを被り、おばあの家をアレックスと共に出て行った。
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