9.マンダーシャイド伯爵家

1/2
前へ
/161ページ
次へ

9.マンダーシャイド伯爵家

 ペトラは、アントンの父マンダーシャイド伯爵のタウンハウスで下女として雇われた。連れてこられた時、まだ子供じゃないかと雇用を渋られたのだが、3歳サバを読んで成人済みの15歳と言い張った。ペトラは、元々自分の誕生日もよく覚えていないから、満更嘘ではないと思っている。職業斡旋所経営者のアレックスが直々に連れてきたため、何とか雇ってもらえた。  ただ、ペトラは自分がルイトポルトにほんのちょっぴり近づいたとは気が付いていなかった。下働きの者が主人家族を見かけることはほぼなく、アントンが貧困街に来た時は変装していたこともあって、ペトラは自分の仕える主人の息子アントンがヤンと呼ばれた少年――実はルイトポルト――にあの時付き添っていたとは露とも思っていなかった。  ペトラがマンダーシャイド邸に到着した当日は仕事の説明と住み込みの部屋の入居だけで終わり、労働を免除されたが、翌日からはそうはいかなかった。ペトラは貧困街にいた時に掃除はおろか、洗濯もほとんどしたことがなかったので、当初失敗ばかりして先輩達を驚かせたばかりでなく、苛つかせた。 「あんた、昨日入った……名前何だっけ?」 「ペトラです」 「じゃあ、これ洗っといて」 「え?!」  先輩下女に洗濯籠を押し付けられ、ペトラは呆然とした。昨日、洗濯場を案内はされたが、どういう風に洗えばよいか聞いていない。もっとも庶民だったら子供の頃から家事をやっているので、ペトラぐらいの年齢でも洗濯はできるはずなので、先輩下女が特別不親切という訳でもない。ペトラが貧民街出身だと言えば、洗濯の仕方を教えてくれたかもしれないが、差別が怖くてペトラは打ち明けたくなかった。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加