11.喜びと悲しみ

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 パトリツィアが母と寝室で話してから9日後、元気な男の子の産声が屋敷に響き渡った。生まれたのが男の子と聞いて、今まで屋敷に寄り付かなかったベネディクトが現金にもすぐに戻ってきて生まれたばかりの息子をさっそく名付けた。 「エリザベート、でかした! よく跡取り息子を産んでくれた!――ラファエル、私が父だよ!」 「素敵な名前ですね……」  その直後、エリザベートは意識を手放し、再び目を覚ますことはなかった。  パトリツィアはエリザベートが息を引き取ってから、葬式まで何をしていたか思い出せなくなった。彼女は母の命を奪った弟を憎いと思う反面、弟の無邪気な笑顔を見たり母の最期のお願いを思い出したりすると弟を愛しいと思い、相反する感情をどうすればいいのかわからなくなった。  エリザベートが亡くなっても、母のいない新生児がいても、ベネディクトの生活パターンは全く変わらなかった。そんな冷たい父の姿と幼い弟の様子を見るにつけ、パトリツィアの中から『母を奪った弟が憎い』という感情は小さくなっていき、弟は愛されて庇護すべき対象となっていった。
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