12.宰相の再婚

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 ガブリエレはパトリツィアにいつも『お義姉様ばかりずるい』と言って彼女の物を取り上げ、二度と返さなかった。カロリーネはそんな実娘を咎めないばかりか、『どうせ沢山いい物を持ってるのだからいいでしょう?』と積極的にパトリツィアの物をガブリエレと一緒になって奪った。  2人はパトリツィアの実母エリザベートの形見も容赦なく取り上げた。パトリツィアは形見がとうとう青いサファイアのネックレスだけになった時、クローゼットの奥深く、ブリキの箱の中のがらくたの下に隠したが、それもとうとう見つかってしまった。 「ねえ、お義姉様、こんないい物をまだ隠していたのね。ずるいわ! 私に頂戴!」  そう言ってガブリエレは形のいい唇を尖らせた。意地悪な物言いや邪悪そうな微笑みがなければ、かわいい令嬢がちょっと拗ねているだけと誰もが勘違いしてしまうだろう。彼女のふわふわな明るい茶色の髪や、白絹のような肌にほんのり紅色に染まった頬、新緑のような色の瞳を持つくっきり二重の目は、そう思わせるのに十分だった。 「ガブリエレ、それだけは駄目よ……お願い。お母様の形見はもうこれしか残っていないの」 「あら、お義姉様。お母様はまだ生きてるじゃない。縁起悪いこと言わないで。お母様に聞いたら、それは私にくれると言っていたわ。元々お母様の物なんだから、お母様が誰にあげても文句は言えないでしょ?」 「そ、そんな……」  そうして最後の母の形見のネックレスも取り上げられてしまった。パトリツィアは、もしかしたら父が形見を取り返してくれるかもしれないと一縷の望みを持ってベネディクトに訴えた。 「なんだ、パトリツィア、そんなことか。あの程度のサファイアのネックレスなら買ってやるから我慢しなさい。国宝級のものじゃないんだから、妹にやっても惜しくないだろう?」 「でも、お母様の形見はもうあれしか残っていなかったのです。他の物は皆、カロリーネ様とガブリエレに取られてしまいました」 「彼女達はここに来るまで苦しい生活をしていたんだ。そのぐらい我慢しなさい。それにカロリーネをいい加減、母親と認めたらどうなんだ?」  ベネディクトに全く取り合ってもらえず、それどころか意地悪な継母を母と呼べと言われ、意気消沈してパトリツィアは父の前を辞した。
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