12.宰相の再婚

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 自分は我慢すればいい。そう思っていたパトリツィアだが、自分では何も抵抗のできない幼い弟ラファエルに対するいじめだけは看過できなかった。それどころか命の危険すらあった。  ツェーリンゲン公爵家の跡取り息子ラファエルがいなければ、パトリツィアが王太子妃となった後、ガブリエレに婿をとらせて公爵家を継がせることができる。3歳以下の幼い子供の死亡率は高いから、事故か病気に見せかけて殺せば不自然に思われない。カロリーネは乳母を自分の息がかかった女性に変えた。ベネディクトは跡取り息子には執心していたが、養育は妻と使用人任せでめったに帰らない屋敷で起こっていることに関心を持たなかった。母方の祖父母は既に亡く、実家は母の従兄に当主が代替わりしており、パトリツィアも没交渉でとてもではないが頼れなかった。  乳母が変わって警戒したパトリツィアは弟と一緒に寝るようになった。新しい乳母が来た最初の夜、心配になってラファエルを見に来たら、彼の顔の上にクッションが乗せられていたのだ。一晩中側にいるはずの乳母はそこにいなかった。パトリツィアはすぐさま自分の部屋にラファエルを連れていき、自分の専属侍女ナディーンの伝手で母乳の出る下女をこっそり手配した。だが、その後やがて秘密の乳母代わりの下女の事がカロリーネにばれて解雇されてしまった。カロリーネは、1歳を超えているラファエルに母乳は必要ないとして、手配した乳母は母乳が出ない女性だったので、ラファエルは突然強制的に乳離れすることになった。  パトリツィアは、カロリーネや家庭教師にいくら苦言を言われても授業の時も連れて行った。自分へのいじめはじっと我慢しても、弟のためなら継母に反抗するのも怖くない程に強くなれた。そうして育っていくパトリツィアとラファエルの姉弟の絆が普通の姉弟よりも強く結ばれていくのは当然のことだった。
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