13.王弟の侍従見習い

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 ヨルクの勤務初日、わざわざヨアヒムが玄関まで出迎えてくれてヨルクは驚いた。よほど使用人の少ない低位貴族でもない限り、王侯貴族の雇い主は、使用人が入職しても執事に任せきりで直々に挨拶しないのが通常だ。ヨルクの前職の貴族の家でもそうであった。 「いらっしゃい。今日からよろしく。私が君の雇い主のヨアヒム・フォン・クレーベだ。こちらが私の古くからの侍従で執事も兼任してもらっているセバスチャンだ。仕事の事は彼に何でも聞いてくれ」  ヨアヒムの後ろに控えていたセバスチャンの頭髪は真っ白で、腰が曲がって立っているのも辛そうだったが、口を開けば声が通って背筋を伸ばして――できる限りではあったが――ピシッとしていた。 「君がヨルクだね。私はこの通りの老体でいつ天国に召されるか分からない。このままでは、坊ち……旦那様の事だけが心残りなんだけど、君は頼りになりそうだね。期待しているよ」 「バスティ、そんな事言わないでくれ。引退しても茶飲み友達になってくれよ」 「いえいえ、そんな訳には参りません」  主従の強い信頼関係は、ヨルクには眩しく見えた。  その後、いくら探ってもヨアヒムに後ろ暗い所は出てこなかった。唯一首を傾げたのが、足繁く宰相の家に通って従姉とその娘に会っていることだった。今は宰相と個人的に連絡をとっている様子はないものの、いつ接近するか分からない。ヨルクは注意してヨアヒムを観察し続けるようにアレックスに命じられた。
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