14.アントンの見合い

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 それまでにアントンが見合いで会った令嬢達は、それなりに美しかったが、皆、自分の美貌や家柄を鼻にかけて気が強そうな女性ばかりだった。アントンが肉体関係を持っている配下の影の女性達も、部下であってもアントンにただ言いなりではなく、アントンの指示が上手くいかないと思えば反論するぐらいの気骨はある。  彼女達と全く違い、リーゼロッテがひたすら父親の顔色をうかがって唯唯諾諾と従う様子を見て、アントンは彼女が自分の妻になっても自分の言いなりなんだろうなと思った。彼女を従わせたらどんな気持ちになるだろうか。妻として夫に従う彼女は夫だけにどんな表情を見せるのか。めちゃめちゃにしてやったら、どんな顔をするんだろうか。ふとそんな昏い思いに耽ってしまい、父親が呼んでいるのに気付くのが遅れてしまった。  レストランには庭園があり、デザートの後、父親達は『若い者同士で庭でも見て着たらどうか』と勧めてきた。ここでどちらか一方が散策を断って父親と一緒に帰宅したら、この縁談を進めないのが暗黙の了解である。アントンはこれまでの見合いでは仕事を理由に見合い相手との2人きりの時間を回避してきた。もっとも2人きりと言っても護衛や侍女は残していくので、完全なる2人きりではない。  アントンがリーゼロッテとの散策を了承すると、アントンの父パスカルは目を丸くしたが、息子がやっと結婚する気になったかもしれないとあからさまに安堵した様子が伺えた。  アントンがリーゼロッテをエスコートしようと腕を出すと、彼女はドレスの裾に躓いて転びそうになった。その様子を見てエーリヒは、『無様な姿を見せて申し訳ありません』とひたすら謝ってきた。リーゼロッテはそんな父親を見てまたおどおどしていた。  庭園を少し歩いて回ってから、ガゼボで向かい合わせに座ると、すぐにウェイターがやって来たので、アントンはリーゼロッテに飲み物の注文を聞いた。 「……マンダーシャイド伯爵令息様と同じもので……」 「それでは、コーヒーはお好きですか? 最近、王都のカフェで流行っているのですよ」 「コーヒーは……飲んだことはありませんので、分かりません」 「それでは試しに飲んでみてはいかがでしょうか? 初めてだと苦いかもしれませんから、ミルクと砂糖をたっぷり入れるといいですよ」  リーゼロッテが了承したので、アントンはコーヒーを注文した。コーヒーが届くと、それまで無表情だったリーゼロッテの目が少し輝き、香りを吸い込んで微かに微笑んだ。 「いい香りですね」 「そうでしょう?」
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