16.アントンの結婚*

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 両家の親とアントンの希望により、アントンとリーゼロッテは最短の婚約期間3ヶ月で結婚することになった。それを聞いたルイトポルトは、アントンが結婚は計画の邪魔と常々言っていたのに突然結婚する事を訝しがった。 「アントン、一体どういう風の吹き回しだ? いつも僕にパティと距離を取れって言ってる癖に、まさかリーゼロッテ嬢に惚れたんじゃないだろうね?」 「そんな訳ありませんよ。まだまだ二重スパイを続けないといけないですから、ここらで父親の言う事を聞いた振りをしておかなくてはならないだけです。私は殿下と違って宰相断罪後はきっぱり離縁して彼女を修道院へ送るつもりですよ」 「何も知らないでこんな男と結婚するリーゼロッテ嬢が気の毒だな」 「私達が成さなければならない事の前に個人の感情など微々たるものです。殿下も肝に銘じておいて下さい」 「相変わらず不敬だな、アントンは……」 「殿下に心からの助言をできるのは私だけと自負していますので」 「確かにアントンの事は信頼してるけどね……」  ルイトポルトは何となく不満そうだったが、アントンは自分の結婚の話をそこで打ち切った。  アントンとリーゼロッテの結婚式と宴は、今をときめく宰相の腹心の嫡男かつ王太子の側近のものとしては大分小規模だった。双方の親は派手に結婚式をしたがったが、アントンは自分の主がまだ結婚していないのに豪華な結婚式をあげる訳にいかないと突っぱねた。リーゼロッテは、アントンの意思に従うと言って不満そうな様子も見せなかった。  アントンは父と義父の手前、初夜を無視できなかったが、宰相断罪後の事を考えて新妻を最後まで抱かない事にした。睡眠効果のある媚薬・避妊薬成分入りのお茶を『リラックスできるお茶』と偽って閨の前にリーゼロッテに飲ませ、執拗に愛撫して絶頂させて気絶させ、純潔を失ったと誤解させる。同様の事をルイトポルトもパトリツィア相手に行わなければならなくなるかもしれないので、いい予行練習だとアントンは受け止めていた。
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