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「抱っこをせがんでいるんです。抱っこしてみますか?」
「え?! い、いいよ。落としちゃうかもしれないから怖い」
「大丈夫ですよ。乳母が抱き方を教えてくれます――ナディーン、パトリツィアを抱き上げてくれ」
ベネディクトの妻エリザベートは産後の肥立ちが未だによくなっておらず、ベネディクトはこの場に妻を伴っていなかった。その代わりという訳ではないが、乳母ナディーンを連れてきており、同じ部屋の壁際に控えさせていた。
ナディーンに抱き上げられたパトリツィアは、ルイトポルトの方に手を伸ばした。ルイトポルトも思わず手を差し出すと、小さな紅葉のような手がルイトポルトの指を掴んだ。その時初めて、この小さくて弱い存在を守らなくてはいけないとルイトポルトは思った。それ以来、ルイトポルトの心はパトリツィアに囚われたのだ。
ルイトポルトは両親から愛情を得られず、一人っ子ゆえにきょうだいもなく親しい友達もその立場では簡単に作れずに孤独であったから、しょっちゅう王宮にルイトポルトを訪ねてくるパトリツィアが大切な存在になるのは自明の理だった。年齢差もあったから、ルイトポルトはさながら妹を溺愛する兄のようになった。
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