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「どうですか、浦上さん。ヒットしました?」  鑑識斑の部屋を訪れた藤永は、ドアを開けると同時に目当ての人間の腕を掴んでいた。 「おいおい、俺は容疑者じゃねーんだ。その手を離せ、藤永」 「あ、すんません。ついその顔——」 「何だ、そのってーのは」 「班長の顔って厳ついですもんね。一見犯人顔に見えちゃう」  部下達の囃立てる声に浦上が一喝して見せると、鑑識のボスはすぐに仕事モードに切り替えて藤永の欲する回答を差し出して来た。 「ありがとうございます、急がせてしまって」 「こんなの毎度のことだ、一課の連中は特にな」 「……すいません」  軽く会釈をし、藤永は受け取った紙をパラリとめくった。 「指紋はホテルで殺害された害者の首から出たのと一致した。だが、DNAが違う、そいつは精液(しょうこ)の人間とは別人だな。ついでに言うなら、大学教授のDNAとも別人だ」 「そう……ですか」    ——違った……俺の感が外れたか。  落胆し、唇に指を当て千思万考する藤永は、肩に軽い衝撃で我に帰り、置かれた手の先の浦上に目をやった。 「任意の時に指紋は取れるかもしれないが、髪の毛なんて、同意がないと取れんだろ。お前どうやって手に入れたんだ。偶然拾った——なんて言うなよ?」 「それは企業秘密ですよ」  しれっとした表情で応える藤永は、諦観している浦上に気付かないフリをし、再び手にしていた用紙に目を落とした。 「例の大学教授の指紋も、同じように害者の首から出てきた。ってことは、容疑者はこの二人のどっちか何だろうが。いかんせん、あの精液(しょうこ)が弊害になるなんてなー」 「——ですが相手がウリ専のボーイでしょ、性行為したときに体に触れて付いたって言えばそれまでですよ。それにアパレルの被害者が殺された時、幡仲は関西にいましたしね」 「俺は一課の人間じゃないから口出す事は避けてたけど、普通、犯人ってのは証拠は隠すもんだろ? なのに精液なんて身バレするもんを残し去るってのは、どう言う意図があるんだ」  浦上の言葉に返すよう、藤永は重い溜息を吐いた。 「俺も分からないんです。仮に初犯で警察のデータベースに歴がないからと言っても、そんな大胆な事するものかってね。犯罪行為をする人間なら、隠蔽するのが当たり前だと……」 「ビビってつい隠しそびれたんじゃねーのか」 「それなら尚のこと、二度目以降は隠しますよね、普通は」 「普通なら、まあそうだよな」  的は絞れてきたはずなのに、肝心の決め手に欠ける——。  マレフィセントのママから、柊がナンパされて害者と店を出たことは確認済みだ。状況だけだと殺害したのは柊の可能性が高い。それに常連の男が殺害された日、幡中は出張で不在だったのも裏が取れている。  イヴ殺害の件にしても、柊は店で苫田と一緒にイヴがいたのを見ていたはずだ……。きっと彼女の顔を見知っていただろう。だが——。 「……浦上さん、ありがとうございました。また何かあったらよろしくお願いします」 「貸は犯人挙げてくれる事で手を打つよ。まあ、頑張れや」 「はい、じゃ失礼します」  明確な収穫を得ることが出来ず、曇る表情のまま藤永はドアを閉めると自然と溜息が出てしまった。 「痕跡を残す容疑者……か。俺の勘は外れてるのか……」
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