137人が本棚に入れています
本棚に追加
1.虐げられる令嬢
リーゼロッテは擦り切れた下女のお仕着せを着てファベック伯爵家の屋敷の掃除をしていた。その手はあかぎれで酷く荒れていて割けた皮膚からは血が滲み出てきている。
「いっ……」
モップを手で絞ると、傷にしみて痛い。モップを手で絞らなくてもいい新しいタイプのモップとバケツのセットは、ファベック伯爵家にはない。そのぐらい買うぐらいの余裕が伯爵家にないはずはない。だから欲しいと頼んだら、リーゼロッテは生意気だと背中を鞭打ちされてしまった。その後、鞭打ち傷が化膿して熱が出ても寝込むことすら許されず、働かされた。
リーゼロッテは、現当主の伯爵エーリヒが手をつけた侍女との間に生まれた娘である。妊娠に大激怒した正妻フラウケにリーゼロッテの母カーラは追い出されそうになった。だがエーリヒには当時まだ子供がおらず、息子が生まれるのを期待してカーラを伯爵家に残した。その割にエーリヒはカーラの待遇を全く気に掛けず、フラウケが妊娠中のカーラをこき使っても素知らぬ顔をした。そのせいであやうく母子共々死にかけ、カーラは産後、寝たり起きたりの生活になってしまった。それなのに母娘はフラウケにこき使われてカーラはリーゼロッテが10歳の時にとうとう亡くなってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!