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6.リーゼロッテの失態
見合い場所のレストランには庭園があり、デザートの後、父親達は『若い者同士で庭でも見て着たらどうか』とアントンとリーゼロッテに勧めてきた。ここでどちらか一方が散策を断って父親と一緒に帰宅したら、この縁談を進めないのが暗黙の了解である。アントンはこれまでの見合いのほとんどで仕事を理由に見合い相手との2人きりの時間を回避してきた。もっとも2人きりと言っても護衛や侍女は残していくので、完全なる2人きりではない。
リーゼロッテは、散策をもちろん了承した。彼女には父親の意思に逆らって見合いを断る選択肢がないので、それも当然だった。それにアントンも、父パスカルの予想に反してリーゼロッテとの散策を承諾した。パスカルは目を丸くしつつも、息子がやっと結婚する気になったかもしれないとあからさまに安堵した。
アントンがリーゼロッテをエスコートしようと腕を出すと、彼女はドレスの裾に躓いて転びそうになった。その様子を見てエーリヒは、『無様な姿を見せて申し訳ありません』とひたすら謝ってきた。リーゼロッテはそんな父親を見てまたおどおどしていた。
庭園を少し歩いて回ってから、ガゼボで向かい合わせに座ると、すぐにウェイターがやって来たので、アントンはリーゼロッテに飲み物の注文を聞いた。
「……マンダーシャイド伯爵令息様と同じもので……」
「それでは、コーヒーはお好きですか? 最近、王都のカフェで流行っているのですよ」
「コーヒーは……飲んだことはありませんので、分かりません」
「それでは試しに飲んでみてはいかがでしょうか? 初めてだと苦いかもしれませんから、ミルクと砂糖をたっぷり入れるといいですよ」
リーゼロッテが了承したので、アントンはコーヒーを注文した。コーヒーが届くと、それまで無表情だったリーゼロッテの目が少し輝き、香りを吸い込んで微かに微笑んだ。
「いい香りですね」
「そうでしょう?」
リーゼロッテはコーヒーに何も入れないまま、カップに口をつけた。
「……熱っ!」
初めて飲んだコーヒーの苦さと熱さに驚いてリーゼロッテはカップを手から落としてしまい、手袋が濡れた。
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