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7.未来の夫の気遣い
見合いの席を設けたレストランのウェイターに割れたカップを片付けてもらい、アントンとリーゼロッテはもう1杯コーヒーを注文して飲んだ。
その後、リーゼロッテは自宅に送ってもらう為に自分の侍女と共にアントンの馬車に乗せてもらった。アントンも御者に何か耳打ちしてから、馬車に乗り込んできた。
馬車の中でリーゼロッテの侍女はアントンの目の前にもかかわらず、なぜ彼女が手袋をしていないのか咎めた。
「お嬢様、手袋をされていませんね。マナーの先生もおっしゃっているはずだと思いますが、淑女は生の手を晒すものではございませんよ」
「ご、ごめんなさ……」
「ちょっと待って。それは私が粗相して彼女の手袋に飲み物をこぼしてしまったからだよ。彼女の責任ではないから、責めるのは止めて」
「え?! あっ、そうでございますか。申し訳ありません」
「分かってくれたらいいよ。ただ、他家の貴族の前で主人に物を言うのはどうかなと思うよ」
「も、申し訳ありません!」
「謝らなくていいよ、僕は君が仕える家の者じゃないからね。でも君がそういう態度を他の貴族の前でとると、主人が恥をかくという事を覚えておいたほうがいいよ」
不躾な侍女は最初、ムッとした表情を隠しきれなかったが、リーゼロッテの父親に告げ口されると思ったのか、アントンが彼女を諭すにつれて青くなっていった。
アントンは、使用人の分際で未来の妻を咎めた侍女とそのような使用人の態度を許す彼女の両親の姿勢に腹立たしくなったが、アントンが他家の使用人を首にしたり、他人の両親をどうこうできたりする訳ではない。でも嫁いでくれば、彼女はそんな両親や使用人達と縁を切れる。そう思ってアントンは怒りを鎮めた。
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