7.未来の夫の気遣い

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 そうこうしているうちに馬車は、リーゼロッテのファベック伯爵家のタウンハウスがある方向ではなく、貴族向けの店が立ち並ぶ地区に差し掛かっていた。リーゼロッテはそれに気付いたが、アントンに聞きづらくチラチラと彼を見た。彼女の侍女も気が付いているはずであるものの、さっきアントンに言われた事が効いているようで黙っていた。  アントンはある化粧品店の前で馬車を停めさせ、少し待っているようにリーゼロッテに言って自分だけ降りた。リーゼロッテ達に見えないように御者に何か言うと、アントンは店の中に入って行った。  馬車の扉が閉まった途端、それまで大人しくしていた侍女が再び口を開いた。 「お嬢様、手袋はどうしたんですか? マンダーシャイド伯爵令息はお嬢様を庇ってましたけど、お嬢様が粗相したんでしょう?」 「ご、ごめんなさい……」 「何があったか話して下さい。場合によっては旦那様に報告させていただきます」 「そ、それだけは……勘弁して……」  リーゼロッテはすっかり怯えていた。いくら侍女が打ち明けろと言ってもリーゼロッテは勘弁してと言うばかりだった。そうこうしているうちにアントンが戻ってくる姿が見えたので、侍女は聞きだす事を諦めて口を噤んだ。  アントンは馬車に戻って来ると、手にした容器を開けた。 「、手を出して」  いきなりリーゼロッテを愛称で呼んだアントンにリーゼロッテも侍女も面食らい、リーゼロッテは驚きのあまり咄嗟に反応できず固まっていた。アントンは彼女の手をそっと持ち上げ、容器の中からクリームを掬って彼女の手に塗り始め、リーゼロッテはもっと驚いた。 「マンダーシャイド伯爵令息様?!」 「僕の名前はアントンだよ」 「アントン様?」 「うん、何?」 「アントン様にそんな事していただく訳には……!」 「君は僕のになる女性だから、このぐらいさせて。君が喜んでくれるなら、なんてことないよ」 「……ありがとうございます」 「どういたしまして。これは、肌荒れに効くクリームだよ。遠慮なく使って。なくなったらまた買うから」  リーゼロッテも侍女も『婚約者になる女性』と聞いて目を瞠った。
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