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パトリックは、息子の言葉を聞いて顔を真っ赤にして怒ったが、アントンは飄々と受け流した。でもそのポーカーフェイスの裏では、父親を心の中で罵倒していた。
リーゼロッテの持参金が少ないのは、アントンがパトリックの反対を押し切ってそれでいいと言ったからだ。通常、持参金があまりに少ないと、夫がきちんと妻の味方をしない限り、婚家で妻の肩身が狭かったり、品位を保つ予算を十分に取れなかったりする恐れがある。それに万一離婚する場合、実家の援助を得られない時は残った持参金が当座の生活費になる。アントンは、宰相失脚後にリーゼロッテと離縁する予定だが、婚姻中はもちろん、離婚の際も十分金銭援助するつもりでいる。
「アントン、人聞きが悪いぞ! ウェディングドレスだって花嫁の親が買うべきなのにうちが買ってやったじゃないか」
「ドレスは私のお金で買いましたよ」
「お前の金は俺の金だ」
「呆れますね。せっかくの結婚式前に気分の悪い話ばかりされてがっかりです。結婚してくれるだけでもいいって言ってたのは嘘なんですね。息子の結婚も出世の道具ですか?」
「メリットのない結婚など意味がない」
「でも父親は宰相派のファベック伯爵ですよ」
「ああ、でもあんなガリガリでマナーもおぼつかないようじゃ、父親に見放されてるのだろう? 行かず後家の娘を厄介払いできて安堵してるんじゃないか? 結婚後に家同士の縁を強化するなんて望めなさそうだ。社交だって期待できないだろう」
「そのぐらい、私が家庭教師をつけて挽回させてあげますよ。だからこの話はもう終わりです、いいですね?」
アントンは、父親を殴りたい程頭にきていたが、辛うじて衝動を抑えて彼の前から去った。
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