10.初夜の準備

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10.初夜の準備

 リーゼロッテとアントンの結婚式の同日夕方、マンダーシャイド伯爵家のカントリーハウスに式の招待客を招き、祝宴として晩餐会が開かれた。アントンの父パトリックは、晩餐に外国から珍しい食材を仕入れて提供したがったが、アントンは領地の食材を宣伝するいい機会だから地元産食材を使うと押し切った。前菜は地元産野菜のサラダ、メインディッシュとしては、領地の猟師が獲ったシカ肉のステーキ、デザートは特産のりんごのパイなどが饗されたが、リーゼロッテの父エーリヒは内心、センスの欠片も感じられない田舎料理だと嘲った。  エーリヒだけでなく、継母フラウケと異母妹ヘドヴィヒもそれぞれの思惑から機嫌があまりよくなかった。それでもマンダーシャイド伯爵夫妻や親戚に話しかけられると一転して作り笑顔で取り繕った。  招待客がデザートを食べ終わった頃、パトリックは、皆の注目を集める為にパンパンと手を鳴らした。 「皆様、新郎新婦は初夜の為に余力を残しておかないといけませんので、ここらで失礼いたします」  そこで招待客がどっと笑い、リーゼロッテは恥ずかしくなって俯いたので、アントンが険しい顔で父親を睨んでいるのに気が付かなかった。 「皆様はお好きなお飲み物を召し上がってまだまだどうぞご歓談下さい――ほら、アントン、リーゼロッテ、挨拶しなさい」 「皆様、今日は私達の為にいらして下さってありがとうございました。私達はこれで失礼しますが、皆様は心行くまでご歓談下さい」 「み、皆様、わ、わ、私達を、お祝い下さって、ありがとうございました……」  リーゼロッテは、両家家族と親戚一同の前だけでも人前での挨拶に緊張してしまうようで尻すぼみの挨拶になってしまった。  宰相断罪後に離縁を考えている以上、アントンはリーゼロッテの処女を散らすつもりはない。だが父と義父の手前、初夜を無視できないので、やる振りだけでもする必要があった。しかしアントンがそんな事を考えているとは、リーゼロッテは露程も知らなかった。
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