10.初夜の準備

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 アントンは、リーゼロッテの肩を抱いて宴の広間から退出した。その後ろをぞろぞろと花嫁の初夜の準備をする侍女が付いてゆく。 「私は自分の浴室で入浴してくるよ。君は侍女達に支度を手伝ってもらうといい。ではまた後でね」 「はい」  アントンは自分の寝室に入り、リーゼロッテは夫婦の寝室を挟んでその反対側にある妻の寝室に侍女達と共に入った。  侍女達がウェディングドレスを脱がせようとしたので、リーゼロッテは断ったが、1人では脱げず結局手伝ってもらうしかなかった。ドレスを脱いで下着姿になると、鞭打ちの古傷が茶色いみみずばれのように背中から臀部、腹、上腕、太腿と全身に残っているのが見え、教育の行き届いている侍女達でもほんの一瞬息を飲んでしまった。リーゼロッテは敏感にその雰囲気を感じ取り、腕を胸の前にクロスさせて前かがみになった。 「あ、あの、もういいです、1人で入浴します」 「いいえ、若奥様、お世話させて下さいませ」  侍女達に半ば無理矢理浴室へ連れて行かれ、リーゼロッテは全身と髪の毛を洗われてしまった。こんな事は貴族令嬢だったら当然なのだが、実家で虐げられてきたリーゼロッテにはそんな経験はなく、醜い古傷も見せてしまってとてつもなく恥ずかしかった。だがそんな気持ちは、薔薇の花びらが浮かべられた浴槽に浸かると、次第に霧散していき、心地よい暖かさに瞼がどんどん重くなっていった。
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