10.初夜の準備

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 リーゼロッテが気が付いた時には、夫婦の寝室のソファで傍らの侍女に揺り起こされていた。彼女は知らないうちに髪の毛を丁寧に拭かれ、露出が多くて扇情的な夜着を着せられていた。 「若奥様、若奥様……」 「ん……え?! い、いけない! わ、私、寝過ごしましたか?!」 「いえ、まだ若旦那様はいらしていません」 「あ、でも、あの……この寝間着じゃないといけませんか?」  着せられた夜着は、露出が多くて肌が透けて見えるので、鞭打ちの古傷が丸見えだ。しかも貧相な身体には全く似合っておらず、かえって哀れさを強調する。リーゼロッテは、ソファの上で上半身を倒して身体の前を隠した。 「申し訳ございません。若旦那様のご命令ですので、これを着用なさって下さいませ」 「そ、そんな……じゃあ、せめてガウンをください」 「この部屋は十分暖かいですし、すぐに若旦那様が来ますから、このままでいらして下さい」 「で、でも、恥ずかしいです……」 「私達の事でしたら、いてもいないような者、カボチャとでも思って下さって結構です」 「そ、そんな……」  侍女達は有無を言わさず話題を打ち切り、黒髪の美しい侍女がお茶のセットをワゴンで運んできてソファの前のテーブルにカップを置いた。 「若旦那様のいらっしゃる前にこちらのハーブティーを飲んでリラックスなさって下さい」  白磁に青い薔薇が描かれた上品なカップをリーゼロッテが顔近くに持ち上げてみれば、嗅いだ事のないフルーティな香りがふわっと鼻をくすぐり、口に含むと微かな甘みを感じた。  リーゼロッテがお茶を飲み干したのを確認すると、侍女達は夫婦の寝室から下がった。  ハーブティーを飲めばリラックスすると聞いていたのに、リーゼロッテは緊張のせいか暑くなってきて震えも止まらなくなった。  夫となるアントンは優しくて信頼しているものの、リーゼロッテは男性との性行為に不安を持っていた。元々性知識のなかったリーゼロッテは、婚約成立後に閨の教育を急いで受け、結婚するとこんな事をするのかと衝撃を受けた。その内容は、箱入り娘でもない限り、過激でも何でもないのだが、意地悪な継母フラウケが加虐的な男性との性行為の噂話を語ってリーゼロッテの不安をますます煽った。
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