2.『嫁き遅れの穀潰し』に舞い込んだ縁談

1/2
前へ
/94ページ
次へ

2.『嫁き遅れの穀潰し』に舞い込んだ縁談

 ヘドヴィヒは意地悪だったが、器量がよく、社交界デビューした途端にその美貌が評判になった。まだ婚約者のいないヘドヴィヒに多くの縁談が持ち込まれ、その中に王太子の側近アントン・フォン・マンダーシャイドとの婚約があった。母のフラウケは喜んだが、アントンは1人息子だから、ファベック伯爵家に婿入りするのは期待できない。もしヘドヴィヒがよそに嫁ぐなら、婿を取るのがリーゼロッテになってしまう。かといってヘドヴィヒを嫁がせないのなら、エーリヒがリーゼロッテを代わりに嫁がせようとするのは目に見えている。でもフラウケは、憎い義娘がそんな良縁を掴むなど、我慢できなかった。 「貴方、とても良い縁談だとは思いますけど、ヘドヴィヒには婿を取って後を継いでもらわなければなりませんわ。それにあの子は今年社交界デビューしたばかり。28歳のお相手では年齢が離れすぎています。残念ながら、お断りしましょう」 「いや、リーゼロッテを嫁がせる。あの子なら年齢も近い」 「あんな貧相でマナーも知らない娘を嫁がせたら、我が家の恥ですわ!」 「だから、今から家庭教師を付けさせる。使用人の仕事はもうさせるなよ」 「そんな付け焼刃はすぐにばれます。それより正々堂々とお断りしましょう。後からとんでもない娘を寄こしたと言われるよりは、お断りする方がいいはずです」 「駄目だ。マンダーシャイド伯爵子息は、王太子殿下の覚えがよく、彼の治世には宰相になれるだろう。そんな良縁を逃す方がもったいない。リーゼロッテだって少し勉強すれば多少は見劣りしないだろう」 「宰相になるのは、今の宰相のご子息でしょう?」 「今の宰相の子息はまだ小さい。彼がいずれ宰相になるとしても、マンダーシャイド伯爵子息が中継ぎをするか、いや、そのまま宰相に留まれるかもしれないな……おい、そんな事はお前には関係ないだろう? とにかくこの話はお仕舞いだ!」 「そ、そんな! 貴方!」 「黙れ! 当主の決めた事にいちいち口を出すな!」 「わ、分かりましたわ……」 「分かったならいい。仕事がまだあるから、出て行きなさい」  フラウケは、夫に執務室から追い出され、普段優雅な伯爵夫人とは思えない程、醜悪な表情でギリギリと歯ぎしりをして悔しがった。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加